9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げが行われるとのJPモルガン・チェースやシティグループによる大胆な見立ては、6日発表の8月雇用統計で最大の正念場を迎える。
金利スワップ市場は現在、17-18日開催のFOMC会合での大幅利下げを約35%の確率で織り込んでいる。だが、トレーダーの間では25bpの利下げ予想が優勢で、エコノミストも引き続き25bp利下げを有力視している。利下げ幅を巡り予想が割れていることで、雇用統計の発表前後に米国債市場が大きく変動する可能性が高まっている。先月は、7月の雇用統計が予想外に弱い内容となり、市場は大荒れとなった。
ドイツ銀行の米金利分析責任者、マシュー・ラスキン氏は「週内に解決されそうな大きな不確定要素がある」と指摘。
市場が織り込む予想がどちらか一方に決定的にシフトした場合、25bp利下げを見込んだ取引は「少し利益を得るか、大きく損するか。50bp利下げを見込んでいたなら、その逆になる」と述べた。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、利下げの時期やペースを見極める上で、労働市場を重視する姿勢を鮮明にしている。4日発表の求人件数が弱い内容となったのに続き、5日発表のADP民間雇用者数も伸びが市場に届かず、市場では大幅利下げ観測が強まった。
雇用統計発表の翌日から、米金融当局者はFOMC会合を控え、政策に関して発言を控えるブラックアウト期間に入る。
ドイツ銀行によると、過去15年間において、ブラックアウト期間開始時点でスワップ市場が織り込む予想と、金融当局者による実際の政策決定の間には通常、3bpの開きしか存在しない。この経験則に基づくと、雇用統計が明らかに25bp、または50bpの利下げを裏付ける内容となった場合、現在約34bpの緩和を織り込んでいるスワップ市場では、少なくとも28bpまで予想利下げ幅が縮小するか、およそ47bpまで拡大するか、上下に大きく変動する計算になる。
RJオブライエン・アンド・アソシエーツのデリバティブ(金融派生商品)ブローカー、アレックス・マンザラ氏は「雇用統計や株式市場、米金融政策見通しを巡って、市場には多くの不透明感が存在する」と話す。S&P500種株価指数は7月下旬以降、3度にわたって2%を超える下落を経験した。
マンザラ氏によると、2年債先物のオプションは、6日に利回りがおよそ17bp変動するとの見方を織り込んだ水準となっている。
TJMインスティテューショナル・サービシズのストラテジスト、デービッド・ロビン氏は、担保付翌日物調達金利(SOFR)先物市場では、50bpの利下げとの確信がより高いと指摘する。
為替トレーダーが米雇用統計の発表を前にこれほど活気づいたのはおよそ1年ぶりだ。主要貿易相手国に対するドル相場の変動を測るために使用されるオプションは、雇用統計の発表を控え、2023年3月以来の高水準を記録。市場のポジショニングの目安となるリスクリバーサルは、ドルへの弱気なセンチメントが優勢であることを示している。一方で、不確実性の大きさから、短期的な取引を完全に回避する動きも出ている。
シティとJPモルガンは、大幅な下振れとなった7月の雇用統計が発表された8月2日以降、9月と11月にそれぞれ50bp、12月に25bpの利下げを予想してきた。JPモルガンのエコノミスト陣はその際、9月会合を待たず、2020年3月以来となる緊急利下げに踏み切る「強い論拠」があるとすら述べていた。
両社ともここにきて、予測をやや軌道修正している。シティは「雇用の伸びも低調でない限り」、米失業率が4.3%から4.2%に低下すれば、25bpの利下げにとどまる可能性があると指摘。JPモルガンは50bpの利下げは「8月の雇用統計次第」と述べている。
雇用統計で25bpか50bp利下げかはっきりしなかったとしても、9月11日には8月の消費者物価指数(CPI)が発表される。
だがそれも、市場を一方的に動かすほど決定的でなかった場合、政策担当者は沈黙を破り、今後の方針を示唆するかもしれない、と前述のラスキン氏は指摘。「金融当局者はは政策決定会合で市場にサプライズをもたらすのは望ましくないと考えている」と語った。
著者:Elizabeth Stanton