東証マザーズ指数のチャート分析ほど意味のないものはないが(指数を売買する方法が存在しないため)、そんな同指数の日足チャートがすごいことになった。
日経平均が一時1万9100円台まで突っ込んだ先週9日、取引時間中に瞬間的にマザーズ指数が前日比9.7%安の859.49ポイントまで急落。終値ベースの年初来安値(854.62ポイント)をうかがうような動きとなったのだ。で、パニック的に下げた後、急速に切り返したものだから、ローソク足には信じられないような「長い下ヒゲ」が残ったのである。
ローソク足の「下ヒゲ」の長さは日中の安値から、取引が終わるまでにどれだけ戻したかを示すもの。“戻ろうとする力”“押し目買い意欲の強さ”を反映していると考えられる。
これを、日経平均の2万円割れを例にとって解説してみる。「うわっ、超下げてる!」「えっ、2万円割れてる!」「中国株の暴落なんて日本株に関係ないでしょ、これチャンスでしょ!」「うわっ、やっぱ戻してきた!急がないと!」、みたいな投資家心理が、大幅な水準訂正が進んだ局面では起きるのである。
それが、先週9日の東証1部の売買代金にも表れた。3兆8409億円と3月の特別清算指数(SQ)算出日を除いて今年最大の大商いになったのである。急落局面で、売りのエネルギーに対峙する逆張りの買いエネルギーも絶大!これで、日経平均株価は長い下ヒゲを残したのである。
これに対して、東証マザーズ指数の長い下ヒゲについては事情がまったく異なっていた。“指数10%安”級のクラッシュが起きながら、9日の売買代金は1307億円にとどまり、前日(1436億円)を下回った。7月に入って特に新興株が盛り上がっているわけでもなく、売買代金は先週末までの9営業日でも3番目止まりだ。
こちらについては、「うわっ、超下げてる!」「えっ、もうすぐマザーズ指数10%安になりそうなんだけど!」とつぶやいて終わっていた投資家が大半だったことがわかる。下げるのを待っていた投資家が少なかったわけだ。中国株が連日下げ続けていたとき、日本の投資家は「うわ〜、きついね」と傍観していただけだったはず。それとマザーズ銘柄は似たような扱いにあることが今回の急落を見たことで浮き彫りになったともいえる。
くどいようだが長い下ヒゲは理屈上、「買いサイン」といえる。出来高を伴う長い下ヒゲはさらに強い「買いサイン」とみられる。これは、筆者の先輩である黒岩泰氏が著書「究極のテクニカル分析 秘伝! 黒岩流『窓・ひげ理論』」で強く唱えていた。ただ、先週東証マザーズ指数に残した「超長い下ヒゲ」に関しては、単にチャートに残した傷跡としか言いようがない。見た目は派手だが、中身は地味といった感じだ。
恋愛の世界では、異性の心を揺さぶるには見た目と中身のギャップが大事とかいう。マザーズ指数のチャートを見るたびに今後、先週の下ヒゲは目につくことだろう。ただ、賢明な投資家は、あのド派手なローソク足(中身は地味)に心を揺さぶられないようにしていただきたい。ダマシに騙されないでいただきたい。
(おしまい)
(毎週火曜日に掲載)
※株式コメンテーター・岡村友哉
株式市場の日々の動向を経済番組で解説。大手証券会社を経て、投資情報会社フィスコへ。その後独立し、現在に至る。フィスコではIPO・新興株市場担当として、IPO企業約400社のレポートを作成し、「初値予想」を投資家向けに提供していた。