政府は6月末に策定する新たな財政健全化計画について詰めの議論に入っています。そうした中、今後の財政健全化に追い風となるデータが明らかになりました。2014年度の税収が政府の見積もりを2兆円上回る見込みとなったのです。
財務省がこのほど発表した「租税及び印紙収入、収入額調」によると、4月末時点での14年度税収額の累計は44兆8089億円で、前年同月比12.5%増となりました。政府は今年1月に14年度補正予算を編成し、その時点では同年度税収を51兆7260億円、前年度決算比10.1%増と見積もっていましたが、4月末の税収額はその増加率を上回るペースとなっています。14年度税収額は6月末までに最終集計される予定で、それまでに2兆円以上の上振れが見込める状況です。
日本の国税収入は、所得税、法人税、消費税の3つで全体の8割以上を占めています。そのうち所得税収は4月末ですでに補正後予算額(15兆8170億円)を約9000億円上回っています。賃上げ、ボーナス増額、株式配当増などで個人の所得が増えたことが、想定を上回る税収増につながりました。
法人税は4月末の税収額が6兆5000億円余りで、補正後予算額(10兆5130億円)に対する進捗率は62%程度にとどまっていますが、今後6月末までに増加が見込めるため、上振れ額は1兆円を超える可能性がありそうです。上場企業の15年3月期決算は経常利益ベースで6%増えて過去最高益になるなど、業績回復が税収を押し上げています。
所得税と法人税の税収増加は自然増ですが、昨年4月に税率を8%に引き上げた消費税の税収も着実に増加しており、全体として景気回復が税収増加をもたらしています。補正後予算よりも税収が2兆円上振れると14年度の税収額は53兆〜54兆円台に達する計算です。54兆円台に乗せれば、1992〜93年度以来の水準になります。
日本の税収額の推移を振り返ると、90年度に60兆1000億円の最高額を記録した後、バブル崩壊とともに年々減少傾向をたどり、リーマンショック直後の09年度には38兆7000億円まで減少しました。その後はやや回復し40兆円台前半で推移していましたが、アベノミクスが本格始動した13年度から増加が顕著になり、14年度はバブル崩壊後、初めて50兆円の大台を回復するという見積もりになりました。
財政健全化議論への影響を注視
このように税収の増減は景気変動に大きく左右されてきたことがよくわかります。15年度予算では税収額を54兆5250億円と見積もっていますが、景気回復が今のペースで進めば2015年度もそれなりの上振れが期待できそうです(やや気が早いかもしれませんが……)。
財務省が発表する「租税及び印紙収入、収入額調」では、所得税や法人税など国税の各税目別に毎月末時点での税収額、予算に対する進捗率、前年度との比較などを公表しています。ふだんは経済指標としてそれほど重視されているわけではありませんが、最近のように税収の上振れが目立ち、財政健全化が議論されている状況下で、注目度が上がってきているデータです。
税収の上振れが注目されるのは、それが財政健全化の議論に影響するからです。当面のポイントは上振れ分をどのように活用するかという点です。財政法では、税収の上振れと歳出の未執行などを合わせた剰余金のうち、2分の1以上を国債償還に充てると規定しています。したがって残りの半分は景気対策などに使うことができるわけで実際、これまでもたびたび補正予算の財源として活用されてきました。14年度の剰余金についても今後、使途について議論されるでしょう。
より重要なのが、今後の財政健全化をどのように進めるかという論点です。政府は22日に示した「骨太の方針の素案」の中で、15年度に16.4兆円の赤字となっている基礎的財政収支(プライマリーバランス)を20年度に黒字化するとの目標を掲げました。つまり5年間で16.4兆円の収支を改善するのが目標で、税収増で7兆円、歳出削減や成長戦略の効果で9.4兆円を賄う方針です。
しかし、前出のように税収が上振れたことでスタート時点の15年度の赤字幅を実はもう少し小さく見積もってもいいとの考えも成り立ちますし、5年間に必要な改善額16.4兆円も少し圧縮できることになります。今後も税収増がもっと見込めるなら、歳出削減も小幅で済みます。
これには反論もあります。「税収増がいつまでも続くとは限らないので、今後の税収を過大に見積もるのは危険」「財政健全化は税収増に頼らずに歳出削減を重視すべきだ」などというものです。
こうした意見の相違の背景には、財政政策をめぐる基本的な考え方、路線の違いがあります。前者は成長重視派、後者は財政再建重視派で、実は政府・自民党内には以前からこの二つの“路線対立”があるのです。
安倍首相や菅官房長官、甘利経済財政担当相など安倍政権の中心には前者の考えの人が多くいますが、安倍首相と盟友関係にある麻生財務相は立場上からか歳出削減を重視する発言をしており、自民党の谷垣幹事長も財務省に近いとされています。実際の政策運営はその両者の微妙なバランスの上で成り立っていると言っていいでしょう。
このように税収額のデータは、財政健全化や景気回復をめぐる議論の材料を提供してくれます。
※岡田 晃
おかだ・あきら●経済評論家。日本経済新聞に入社。産業部記者、編集委員などを経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長など歴任。人気番組「ワールドビジネスサテライト」のプロデューサー、コメンテーターも担当。現在は大阪経済大学客員教授。ストックボイスのメインキャスターも務める。わかりやすい解説に定評。著書に「やさしい『経済ニュース』の読み方」(三笠書房刊)。