半導体材料で高シェアを握る昭和電工は、世界市場で競合に勝ち続けるため、昨年入社した半導体メーカー出身の2人を最高責任者に据えた。両者は同部門を変革するキーマンの役割を担うほか、石油化学など同社の事業が多岐にわたり、企業価値が過小評価されているコングロマリットディスカウントの解消も目指す。
染宮秀樹最高財務責任者(CFO、53)はインタビューで、半導体の微細化技術に限界が見えてきた中、今後は3次元化や積層化など「パッケージ実装の技術発展によって半導体の付加価値が高まる」と予測。同社製品の重要性が増すとみて、「昭和電工は一番のキープレーヤーになり得る」と述べた。染宮氏はソニーグループの半導体子会社ソニーセミコンダクタソリューションズで執行役員を務めていた。
真岡朋光最高戦略責任者(CSO、47)も「国や経済安全保障における半導体材料の相対的重要性が上がってきている」と話し、この追い風をうまく活用する必要があると強調した。工場は現在フル稼働が続き、昨年の公募増資などで調達した資金を使って生産能力の増強を急いでいるという。真岡氏は半導体大手ルネサスエレクトロニクスの元執行役員だ。
1939年設立の昭和電工はアルミニウムや石油化学事業で会社を拡大してきたが、2020年に日立化成(現在は昭和電工マテリアルズ)を約9600億円で買収、半導体材料事業を強化している。電子材料用高純度ガスでは世界シェアトップ。シリコンウエハーを研磨するCMPスラリーやSiCエピタキシャルウエハー、銅張積層板でも高いシェアを持つ。
昭和電工の株価はここ数年低迷が続き、18年10月の高値(6470円)と比べ現在は半値以下。日立化成を買収した20年は2割以上下げ、市場の反応は冷ややかだった。染宮氏も入社前は「身の程知らずな小が大を飲む買収」とみていたが、現在は「半導体材料の7つぐらいのカテゴリーで世界トップ3に入る製品を持っている。こんな会社は他にない」と話す。
コングロマリットディスカウント
染宮氏は米JPモルガン・チェースやメリルリンチ日本証券(現BofA証券)で買収・合併(M&A)業務に携わり、真岡氏はレノボ・ジャパンでNECとの事業統合後の効果を最大化するポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)を主導。2人は昨年10月に昭和電工へ入社し、今月4日付で現職に就いた。外資系企業での勤務経験が豊富で、成長に欠かせない企業風土改革も喫緊の課題だとみる。
染宮氏は効率経営の指標である投下資本利益率(ROIC)を重視しており、ROICが最も低いアセットである政策保有株が「過去のしがらみで残っている」点を問題視。入社直後から売却の加速に取り組んでいる。
昭和電工は7つの事業セグメントを抱え、「明らかにコングロマリットディスカウントになっている」とも指摘。課題解消に向け、2月には20年12月に発表した長期ビジョンを更新する計画だ。染宮氏は企業価値が実質的な利益の何倍になっているかを示すEV/EBITDA倍率について、現在の6倍台から「年内には8倍台を達成したい」と語った。
高橋新社長の強い覚悟
両氏の入社の決め手となったのは、「昭和という冠のついた会社が本気で世界で戦う壮大な社会実験をやろう」と高橋秀仁常務(当時)から掛けられた言葉だった。高橋氏は4日、社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格した。1月に昭和電工と昭和電工マテリアルズの経営体制が一本化され、23年1月には法人格も統合予定だ。
染宮氏は、高橋氏の言葉にこの統合を機に会社を根本から変えたいという「強い覚悟を感じた」と振り返る。一方、真岡氏は昭和電工の社名を今後変更する可能性について「ノーコメント」とし、言及を避けた。
著者:古川有希、望月崇